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私って、CRPSなの? 3 (「症候群」って実は) 

 昨日、あれからつらつらと考えてみたんですが、医師によって診断が割れる(CRPSか、単なる神経損傷か)根本原因は、お医者さんの守備範囲の違い以上に、「CRPSの正体が分かっておらず、ちゃんとした定義ができない」ってことにありそうです。

 そもそも、CRPS(複合性局所疼痛症候群)の「S」、つまり「シンドローム(症候群)」というのは、パッと見は凄そうですが、実は「何か変なことが色々起きているけど、なんでこうなるのかハッキリしない。どういう病気か分かんないけど、何か名前がないと不便」という時に使われる言葉です。病名というより、ある一連の症状を起こすような未知の異常を、良く分かってる病気と区別するための便宜上の区分け、といった方が適切かもしれない。

 病気の正体が分かって入れば、病気は確定診断ができます。いや、できるというのは言いすぎで、技術的・時間的に難しい、ってことだってあるけど、少なくとも確定診断の方法は存在している。
 例えばがんだったら「細胞が突然変異して、際限なく異常増殖する病気」という正体が分かってます。だから、表に出ている症状が頭痛だろうが腹痛だろうが、はたまたまったく自覚症状がなかろうが、そういう細胞が見つかれば、疑いもなくがんです。
 風邪だって、「風邪の菌に感染し、炎症などを起こしている状態」だってことが既に分かってます。喉の細胞を培養して風邪の菌が出てくれば(時間がかかるからあまりやらないけど)、確実に風邪です。

 でも、○○症候群と言われている病気の多くは、そもそも正体が分かっておらず、発病の仕組みも不明なので、確定診断する方法がありません。医師が患者の症状を見て、「ほかに理由が見つからないし、どうもコレらしいね」ってことで診断します。でも症状の見方ってのは医師によって微妙に違ったりしますからねぇ。いくら学会などで定義を決めても、なかなかキレイには鑑別できません。慢性疲労症候群などにも、同じ問題があるようです。
 あ、症候群という名がついていても、その後研究が進んで正体が明らかになり、確定診断がつくようになった、って病気も勿論あります。AIDS(後天性免疫不全症候群)なんかがそうです。でもCRPSの研究は、まだそこまでの段階に達していません。

 そもそもCRPSという病名自体、使われるようになったのは1995年からとまだ日が浅いです1)。病気自体は、それ以前から「RSD(反射性交感神経性萎縮症)」とか「カウザルギー」という名前で知られていました。
 この2つは、発症の引き金となる怪我が違います。カウザルギーは神経の直接的な損傷がきっかけになるもので、戦争で負傷した兵士の中に酷い痛みに苦しむ人がいたことから発見されたといいます2)。私はこっちの方。一方RSDは、捻挫や手術など、神経の損傷がない小さな傷や、ちょっとした侵襲がきっかけて発症します。採血とか3)、骨折でギプスをはめたとか4)、心筋梗塞の発作を起こしたことか4)、実に様々なことが引き金になるようです。

 きっかけは違っても、その後の症状や経過はほぼ同じなので、「CRPS」という名前に統合されたようです。主要神経の損傷がないRSDを「CRPSタイプ1」、主要神経の損傷から発症するカウザルギーを「CRPSタイプ2」と呼んでいます。
 というのが大体の合意のようですが、医師によっては神経損傷があるタイプもひっくるめて全体を「RSD」と呼ぶ人もいて、ますます混乱しています。RSDというのは、当初どうも交感神経が関与していると思われたところから付けられた名前ですが、後に交感神経が関係していない症例も見つかったことから、より幅広い「CRPS」という名称に統一されたようです。
 でもまあ幅広いっつーか、要するに「身体の一部が痛い」ってこと以外、何も言ってないって病名ですよね。いかにも「何も分かってない」って感じがありありです(苦笑)。

 CRPSは発症の仕組みによって命名されたのではなく、ある一連の症状があるということを示しているだけですから、「実は全然違う複数の病気が入っていた」とか、「全然別の病気だと思っていたものが、実はこの病気の一種だった」とかってこともあり得ます。日本の大学病院ペインクリニックのD医師など、「CRPSという診断名は、よくわからない疼痛症候群のgarbage can(ゴミ箱)にするためのもの」と言い切ります。理由も治療法も分からない疼痛には、何でも「CRPS」という名前をつけて済ませちゃってる、という意味かと思います。うーむ。
 私の病気は、CRPSの定義は満たすものの、どうやらCRPS患者の多くより、経過がかなり良いようです(これでも・・・涙)。今のCRPSの定義の中には入るにしても、痛みが広がっていくような重症CRPSとは、どこか違うのかもしれません。勿論、やっぱり同じ病気で、今後、増悪に転じるって可能性だってありますが。

 近い将来、CRPSの発症の仕組みが解明されて、きちんと診断、治療が行われるようになることを期待しています。研究者さんには、是非頑張って欲しいです。

出典:
1)国際RSD/CRPS研究財団 標準的治療法ガイドライン第3版
2)痛みと鎮痛の基礎知識 -Pain Relief- より「CRPS」
3)採血後の痛み…「複合性局所疼痛症候群」家庭の医学All About
4)MediFocus Guide "Reflex Sympathetic Dystrophy" (2005)

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私って、CRPSなの? 2 (割れる医師の意見) 

 私は2つの病名をもらっています。「神経損傷による麻痺・機能障害と神経因性疼痛」、そして「CRPSタイプ2」です。それぞれについて、お医者さんの意見を紹介します。

 まず、米S大学病院リハビリテーション&理学療法科のA医師。
 「確かに一時はCRPSも疑いましたが、現在はそうではないと判断しています。症状が軽すぎるのです。CRPSだったら、もっと足が腫れ、色が変わり、皮膚に光沢が出てくるなど、はっきりした変化が表れます。アツコの足は、外見はほとんどノーマルですよね。腫脹も温度変化もマイルドで、CRPSらしくありません」
 「それに痛みが起きている部分が最初に損傷した神経の支配領域に限局していますし、痛み自体もだんだん良くなってきています。CRPSは、そんなに簡単にはよくなりませんよ。神経が損傷した部分だけでなく、そのほかの領域に腫れや痛みや広がっていきます。私は足首を怪我したのに、膝、腰、さらに腕へと症状が広がっているCRPS患者さんを診ています。神経損傷をきっかけに、さらにもう一歩進んで、普通の医学の知識では考えられない異常が起きるのがCRPSです。だから難しいのです」。

同じ大学病院のペインクリニックのB医師。
 「CRPSと考えてよいでしょう。学会が決めたCPRSの診断基準というものがあります。1年近く疼痛とアロディニアが続いており、患部の温度変化があり、過去に腫れがあったのなら、この診断基準をすべて満たします
 「症状が軽いもの、痛みが限局しているものは除くといったことは、診断基準には書いてありません。症状の軽い患者だっていますし、症状が一定の場所に限局し、何年もずっとそのまま、ということだってあります。いろいろなCRPSがあるのです。診断は客観的な基準に基づいて行われ、あなたの症状はそれに合います。だからCRPSと診断してよいと思います」

メールで相談した、日本の大学病院ペインクリニックのC医師。
 「私の知ったデータからは、あつこ様の病態は典型的なCRPSと考えます。世界疼痛学会(IASP)の診断基準にも合致します。(あつこ:損傷による神経因性疼痛か、CRPSかはどうやって鑑別するんでしょう?)CRPSは神経因性疼痛の一種と考えます。神経組織の損傷か機能異常によって起こる痛みを神経因性疼痛といい、その中でIASPの基準にあった場合をCRPSといっています」

 ふーむ。ペインクリニックのB、C医師は、ともに国際学会の決めた診断基準に合うからCRPSである、と仰ってます。明快です。
 これに対してリハビリ科のA医師は、これまでのご自分の臨床経験に照らして、CRPSにしては経過が良すぎる、と思っておいでです。診断の仕方が科学的でない、という批判もあるでしょうが、多数のCRPS患者を診てこられた専門医の直感は馬鹿にできません。事故直後からずっと私を診察し、誰よりも経過をよく把握されている方が「違う」とおっしゃるからには、やっぱり何か違うんじゃないか、という気もします。
 今のところ、私はおそらく学会の定義に照らせばCRPSに当てはまるんだけど、臨床的にはボーダーにいると言えるくらい軽いんだろうと自己診断しています。

 それにしても、CRPSという病名の適用範囲が、医師によってかなり違いますね。これは勘ですが、おそらくリハビリ科や整形外科よりペインクリニックの方が、CRPSの適用範囲を広く取っている感じがします。ペインクリニックはCRPSという疾患に早くからなじんでいたはずですし、何といっても疼痛の専門家です。
 別にペインクリニックに限りませんが、お医者さんは一般に、自分の専門領域に引きつけて患者を診立てる傾向があると思います。確定診断ができない病気なので、科による違いが出やすいのでしょう。

私って、CRPSなの? 1 (国際学会の診断基準) 

 先日書いたように、私の痛みについては「CRPS(正確にはCRPSタイプII)だ」と見る医師と、「神経損傷からくる疼痛。CRPSにはなっていない」と言う医師に分かれています。なんでこーなるんだ?と、ちょっと考えてみました。

 まず、神経損傷による疼痛って何かというと。
 事故などで神経を損傷すると、その部分は麻痺しちゃうから、動かないし痛みもない、と思っている人は多いと思います。でも実は、必ずしもそうじゃないのです。動かせず、通常の知覚は無くなっても、痛みはしっかりとある、というケースは少なくありません。私も事故直後は左足首から下がまったく動きませんでしたが、痛みは強烈でした。脊髄損傷で下肢が完全に麻痺している人でも、約7割は足や腰などに痛みを感じているという調査もあります。1)
 痛みというのは本来、身体が出す危険信号です。細菌に感染して炎症を起こしたとか、癌が増大してどっか圧迫しているとか、体に何かまずいことが起きているのを知らせるサインです。ところが神経を損傷すると、原因が無くても痛み信号を出し続けることがあります。怪我だけでなく糖尿病や帯状疱疹などの病気によって起きることもあり、こういう痛みを一般に「神経因性疼痛(ニューロパシック・ペイン)」と呼びます。

 じゃあ、CRPS(この場合はタイプII)って何?というと、「更に一歩進んで、神経の損傷だけでは説明しきれないような異常な反応が起こっている状態」(主治医)です。異常と言っても多種多様。皮膚が変色する、温度が変わる、爪が速く伸びる、関節が固くなる、骨が萎縮する、怪我をした部分以外に痛みが広がる・・・などなど。IAPS(国際疼痛学会)がまとめたCRPSタイプIIの診断基準は、こうなってます。2)

  1、神経を怪我した後に、持続する疼痛、アロディニア、または
    痛覚過敏がある。その場所は必ずしも、怪我をした
    神経が司る部分だけとは限らない。
  2、痛む領域に、腫れ、皮膚の血流変化、発汗の異常が
    起きたことがある。
  3、こうした痛みや、機能の異常を起こすような理由が
    他にない


 私の場合、1は確かに当てはまります。事故直後は、左足のふくらはぎの外側から足首、足の甲、そして足の裏に至るまでジンジンと痺れるような痛みがありました。シーツにちょっとでも触ると電気ショックのような激痛が起きるので、左足はいつもベッドから突き出して寝てました。(こんな風に、触るとか、指でなでるとか、普通だったら痛みなど感じないはずの刺激で激しく痛むことを、「アロディニア」と呼びます。)
 今はかなり良くなったとはいえ、アロディニアはやはり残っています。親指を中心に、足の甲と足の裏の先端3分の1ほどの領域。診察の際、時々医者に指でかるーくこすられますが、その度、うぁあああー、やめれ!と叫んでます。心の中で。
 ふくらはぎや足首の周りは感覚がむしろ鈍くなっていて、そのくせ椅子の角などが当たると結構ピリピリと痛みます。(こんな風に、軽い痛みですむはずのところが異常に強く痛むことを、「痛覚過敏」、または「ハイパーアルジシア」といいます。)
 こういったオーバーリアクション系の痛みのほかに、放っておいても痛い、普通の疼痛も相変わらずあります(前回に詳述)。モルヒネなどの痛み止めも手放せません。もっと良くなると思いたいのですが、事故からそろそろ1年たち、症状がかなり安定しちゃってるような気もします・・・。

 一方、基準の2については、当てはまるかどうか微妙です。CRPSの患者さんは大抵、患部には目で見てはっきり分かるような異常が起きています。パンパンに腫れていたり、皮膚が赤や黒っぽくなってツヤツヤと光る感じになったり。網目状、ウロコ状に変色している例もあって、痛々しいです。
 ところが私の場合、足の見かけは、ほとんど普通と変わりありません。事故からしばらくは皮膚が乾燥してガサガサになりましたが・・・これは単に左足を洗えなかった(痛くて触れず、せいぜいお湯につけるくらいだった)せいかも(笑)。半年ほどは左足が健康な右足より一回り大きくなってましたし、今も若干むくんでいますが、比べてみないとわからない程度。CRPSによくある凄い腫脹とは、ちょっと違う感じもします。爪が速く伸びたり、体毛が固くなるってこともありませんでした。
 痛む場所の温度変化はありました。事故後1、2ヶ月は左足首から下が熱いような感じがし、いつも氷嚢で冷やしていました。ところが3ヶ月目くらいから逆にどんどん冷えてきて、また冷えるほど痛むように。今度は氷嚢にお湯を入れ、常に足先に乗せておくようになりました。外出して足が冷えると強く痛むので、寒い日に出かけたら、帰宅後まずドライヤーの温風を左足に当てます。とにかくまず足を解凍してやんないと、何もできないです(笑)。
 でも、これもいつも冷たい、ということはありません。長時間座っている時とか、気温が低い時とか、冷える状況になった時により冷えやすい、という感じ。「皮膚の血流変化」を示唆しているような気はしますが、ぴったり当てはまるかとなると、よく分かりません。
 ちなみに基準の3については言うまでもなく、怪我以外に思い当たる原因はありません。
(この項続く)

 出典:
1)脊髄損傷に伴う異常疼痛に関する実態調査報告書、日本せきずい基金、2004年9月
2)Merskey H, Bodguk N, eds. Classification of Chronic Pain: Descriptions of Chronic Pain Syndromes and Definitions of Pain Terms. 2nd ed. Seattle, Wash: IASP Press; 1994:40-43. http://www.painbooks.org あつこ意訳

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